映画『アナイアレイション』薬物的SFスリラー芸術って言ったらわかる?

「恐怖と芸術の視聴覚LSD」

“よくわからないもののよくわからなさが理解できてしまった場合、その前には戻れない” この映画は題材そのものを描いた作品といえる。しんしんとしたSFかと思いきや、バイオレンスあり、前衛舞踏あり、それは超芸術的ミーム版放射線だった。

超ひも理論とかスワンプマンあたりに根ざした、ゴリ押し耽美系SF作品と言える。

超ひも理論はかなりざっくりいうと、分子の最小単位はひも状の物質でできているという理論。宇宙を解釈できる次元についてのセオリーだが、本作を見る上では”最小粒子がひも”の部分を頭に留めておくといいだろう。

スワンプマンはご存知の人も多いかも。「ある日沼の近くを歩いていたら落雷を受けて私は死ぬ。沼の成分が科学反応して私と記憶まで瓜二つの存在を作り上げる」的な思考実験だ。

こういうのを説明なしでやってくるのが『アナイアレイション』という作品だと考えてほしい。暴力なまでのSFシュルレアリスム。

アナイアレイションの楽しみ方:めくるめく鬱展開

あまりにも鬱展開が続くんで、あ~絶望に墜ちていく人間を眺めるのが好きなやつっているんだろな〜っていうのが理解できるようになる本作(※共感はできない)。

あなたは次第に、次はどんな手段でオギャアアアって気分にさせてくれるのか楽しみになってくるはずだ。LSD的な光の演出のあと、案の定ものすごく怖い存在Xが現れる。怖すぎ。恐怖が楽しみになる。

シェパードの声を取り込んだ熊。進化的にも興味深い設定だし、ハンターハンターかブリーチばりにキマってる。それでいて描写は残酷なほどに美しい。

なお、まねっこ存在Xは実写で、日本人ダンサー/女優のソノヤミズノがほんとにまねっこしてる。CGではない微妙な違いがあって、逆に狂気的なこだわりを感じる。完コピしようとする不自然さ/本物に重なる偽物の図を盛り込むようすは、2021年昨今だと『シン・エヴァ』みがある。

アナイアレイションの楽しみ方:“何か”と混ざり、溶け合う体験

解説必至のラストは、テセウスの船という話も関連している。

「神話の時代からテセウスの船を修理して大事に取っといてるけど、ほぼ全パーツ変えちゃったっけこれって元のものと同じと言えるの?」という時間的同一性のパラドックスだ。

自己の境界が崩れ去ってしまった本物と、本物と記憶も瓜二つに生まれた泥人形では、そんなに差はないのかもしれない。指先無限に擦り合わせてるとだんだん鉄球つまんでるみたいな感覚になるじゃん?あれが自己と空間(に化けた何らかの思念体)の間で起きてる感じなのかなー。

知る前には戻れない体験

イカれる。曖昧になる。それがこの物語の飛躍的なところをすべて丸く収めててよき。

原題のAnnihilationは「全滅」を表すことばで、特に物理学では「対消滅」を指す。素粒子と反粒子がぶつかって別の素粒子+エネルギーに変わることを意味している(参照:コトバンク)。邦題のサブタイトルが「全滅」のほうに振っていて、その意味合いをぶっ壊しているところがまた趣深い。

作品もしても、激情と放心のカクテル状態でうまく丸まってる。クスリってきっとこうだ。(非可塑性も含む)

ダメ、ゼッタイ!

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