映画『127時間』後に訪れたデジタルシネマの夜明け

岩の隙間で自然派SAW

この映画の人気を支えているのは、面白いシチュエーションもあるけれど、ノンバーバルな切り口も大きいと思う。見て聞いて感じるだけでいい、無音映画から変わらない映画の楽しさがある。

ナイフ拾うくだり、根本的な目的じゃない小さなことでめっちゃ喜んじゃいがちよね。小さな成功体験が大事。映画音楽としてのビル・ウェザースは、無理やり元気出してる雰囲気が伝わる。冷えた岩を日差しが温めるみたいに、絶望的な状況がちょっとゆるむ。

すっげーおもしろかったけど、やっぱ痛そうなとこだけ苦手…。自然を相手取った『SAW』みたいなスプラッターを、『プライベートライアン』みたいな衝撃で見ることになる。後半でそれやりますか〜。

飽きさせない演出の数々

冒頭MVといい中盤の夢うつつといい、演出の緩急がまるで教科書みたい。

場面が膠着したソリッドシチュエーションものでありながら、あの手この手で演出を加えて見る人を飽きさせない。キープカルムで堪えてきた感情がそのまま大洪水の映像に現れてしまうのなんか、夢オチがわかる場面でにやっとしちゃった。

暇だろうから考えていただろう妄想を、観客も暇だろうから詰め込んで見せるスタイル。絵面の変わらない低予算映画のとる道としては王道だと思う。『127時間』は19億円くらいかかった立派な映画ではあるんだけど、『パイレーツオブカリビアン』なんかが300億円をゆうに超えてしまうので、それなりに予算を抑えているほう。

DCP(デジタル・シネマ・パッケージ)の夜明け

映像表現に目を向けると、縦3カラムの映像カットインが特徴的。3カラムの境界が布の端線に切り替わって、流れるようにセンターへ移り変わる、このようすは芸術そのものだと思う。

この映画が公開された2011年は、DCP(デジタル・シネマ・パッケージ)が普及した年。当時のようすについてはアップリンク浅井隆さんのnoteが明るいよ。

国内でもおおむね2013年ごろにはDCPが全国に普及して、2014年公開の『リトルフォレスト』はコミカルな映像効果が楽しめます。どちらも冗長になってしまいそうな作業・忍耐の時間を、MVのようにコマ送りしてる。YouTubeのジェットカットはこうしたコマ送りの最たる姿だと思う。

とはいえ見てるだけで楽しい、ちょっとだけつらい映画でした。

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