映画解説『パラサイト』半地下の“におい”は映画に映るのか

このギジョンがとにかく好き

においという映画表現

キム一家から漂っていたにおいの正体はなんだったのか。

地下室によるものか、あるいは下水、単なる加齢臭だったのだろうか。

ぬぐいきれない半地下層のにおいを体験することは難しい。まかり間違って4DXにでもしなければ、僕たちはその正体を知ることはできないだろう。だから三島由紀夫が絶世の美女を”絶世の美女”とだけ表現するように、ポンジュノ監督らは半地下のにおいをそのまま脚本に描いた。その正体は、パク社長が言いあぐねたように、形容しがたいスメルとして捉えるしかない。

でも、どうしても知りたい。それではキム一家以外の人に目を向けてみるのはどうだろうか

医者に見えない医者と、刑事に見えない刑事

終盤ではわかりやすく上流・下流と言いがたい、中流階級の人たちが現れる。

ギウが目を覚ますと、病院では“医者に見えない医者””刑事に見えない刑事”が顔を覗き込んでいた。彼らは栄えある職業についているが、どこかオーラがない。家政婦のおばちゃんを手にかけ、一線を超えてしまったギウの目に、その違いはまざまざと映ったことだろう。

一方、オーラだけはある成功者たちも例外ではない。

優雅でクールな友人たちと肩を並べるため、奥様のヨンギョは頑張ってルー語を話す。幕間では「そんなことしたら夫に殺される」と言う場面も見られる。これはギウが父ギテクに敬語を使うような、儒教文化的な上下関係ではないだろう。独力で富を築いたパク社長と違って、彼女の地位は場合によって揺るぎかねないものなのだ。

彼らはにおいを発してこそいないものの、オーラを持ち合わせていない。もしかすると与えられた名誉に袖を通しているだけなのかもしれない。

地上と地下の格差社会

『パラサイト』の中で、空間的な上下はそのまま格差の上下を表している。

地上で光を浴びて暮らす成功者たち、地下室で闇に紛れて暮らす貧困者。そして半地下暮らしのキム一家は、四方八方手を尽くしながらも地下室に片足を突っ込んだままの生活だ。大雨のなか坂道を駆け下りて、彼らは洪水に見舞われた低地の自宅へと戻る。古きよき血縁関係を大切にしている彼らだが、兄弟も同じ地域で洪水に巻き込まれているシーンはなんとも皮肉だ。