映画『裏切りのサーカス』愛と裏切りが連なるスパイの日常風景

「何度でも見て悲しみを愛して」

映画界屈指の難解スパイ作品『裏切りのサーカス』

2011年公開当時、チケット一枚で二度見れますキャンペーンが話題を呼んだ。その名の通り逆心と悲哀の物語かと思いきや、実はとりとめもなく愛の物語だったりする。

愛を懐かしみ、囚われ、ケリをつけるための物語

本作の愛のあり方については主人公スマイリーが一番好例だけれど、ここではあえて割愛したい。ゲイリーは、サーカスを離れ大学で寮母をするコニーの元へと向かう。

あそこのイチャイチャアベック、どういう状況やねんって話ではあるんだけど、彼らは一点の曇りもない思いのメタファーだ。それは恋愛関係だけじゃない。研修所から親しく付き合う元同僚の恋路に釘を指すコニー、おどけるスマイリー。彼らもまた一つの愛の形だ。

イギリスと同性愛

60年代イギリス、本作には当時の社会を覆うムードが濃密に描かれている。

作戦遂行のため、ギラムは恋人に別れを告げ、ある種の裏切りを働く羽目になる。イギリス社会の同性愛に対する偏見は日本の比ではない。その様子は、同じくカンバーバッチが主演の『イミテーションゲーム』にも描かれている。第一次大戦中は違法とされており、現代でもゲイカップルへの暴行事件は後を絶たない。

自分を売った友を殺すプリドーの心境も、ややもすれば隠された愛情だったのかもしれない。最後のラ・メール中、彼のなんともかなしみを湛えた顔がよい。もうプリドーが主人公でいい。

裏切りとサーカス

サーカスに所属する連中はほとんど悪党ばかりで、いつまで経っても実像がよくわからんのは変わらない。その顕微眼と弱みの残酷なことたるや。裏切りの網の中で彼らは今日もきっと目線を動かしているのかと思うと、何度だってその様を見たくなってしまう。大の男が、諜報家が涙を流すシーンはどれも素敵。

それを踏まえてのハッピーなクリスマスパーティーがいいよね。

東西冷戦から職場の人間関係まで、すべてを脇に置いてサーカスがお祭り騒ぎに興じる、夢のようなひと時。修羅場を抱えるソ連にだって国家を手向けるいい夜だ。そんな演出を経て、スマイリーはコントロールに就任。ギラムも思わずニッコリ。あれだけ綿密なミステリーを敷いておきつつも、ラストの「何はともあれ」感がサイコーだ。

パーティーシーンで流れるLa Merは、60年代アメリカにてBeyond the seaとして大ヒット。歌詞には海の向こうの恋人を思う詩が添えられた。

スパイ映画界に残る、非日常の中の日常

『裏切りのサーカス』は、終始愛と裏切りが連なった映画だ。

しかもそれはドラマティックな愛憎劇とかではなく、じめっとした温度感の漂う(我々にとっての)非日常の中の日常。原作者の故ジョン・ル・カレ自身が元諜報屋だったというから、まさしく。ラストをハッピーエンドとするなら、この映画はヒューマンドラマと戯曲という評価が正しいかもしれない。

ラブだなぁ。

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