ヴィンセントとジュールスに訪れる2つの奇跡
魅力的な悪党たちがクールに跋扈するパルプフィクションの連載、第1弾。その中でも特に魅力的なキャラクター、ヴィンセント・ベガとジュールス・ウィンフィールドを取り巻く、2つの奇跡について見ていきます。タランティーノより”間抜けコンビ”と称された二人は、実に奇妙な運命を辿っていきます。
ヴィンセント・ベガと”トイレの奇跡”
この作品で注目してもらいたいのが、登場人物たちがトイレに立ち寄る場面。薬に殺人、悪という悪に糸目のないパルプでは、トイレが見どころになることなど下品でもなんでもありません。
基本的には”トイレの災厄”
主人公ヴィンセントは事あるごとにトイレへ行って災難に巻き込まれていきます。ミアを送り届けてトイレで精神統一を図っているとき、ミアはコカイン(吸う方)とヘロイン(打つ方)を間違えて吸引。オーバードーズでとんでもないことになります。極め付けはプッチ宅へ潜伏しているとき。適当な冊子を拝借してトイレに入っていたところ、キッチンにマシンガンを置き忘れてしまい、彼のやくざ者人生は幕を下ろしました。無情にもヴィンセントがトイレに立ち寄ると、”トイレの災厄”が降りかかる仕組みになっています。
誰かがトイレに立つと、ちょっと良いことが起きる
ただ不思議なことに、ヴィンセントの周りの誰かがトイレに行くとき、彼自身の運気は面白いほど上がっていきます。
レストラン「ジャック・ラビット・スリムス」のシーンでミアがトイレから戻ると、そこには注文した料理が提供されていて彼女は上機嫌(コカインのせいもある)。さらに作中随一の名場面、ツイストダンスコンテストでは優勝まで飾るほど。家に着いた後のことを考えると、天地のような落差です。
“ビッグ・カフナ・バーガーのシーン”では、トイレに隠れていた黒人青年マーヴィンに不意の乱射を受けるも、その銃弾はすべて彼らを避けていきます。こんな調子で、ヴィンセントがトイレに入ると彼には災厄が訪れ、周りの人にはちょっと良いことが起こります。
やっぱりトイレの神様っているんでしょうか。
ジュールス・ウィンフィールド と”神の奇跡
「神の力が働いたんだ」
一方、相棒ジュールスの方には、本当に神の奇跡が舞い降りていたのかもしれません。
前述の”ビッグ・カフナ・バーガーのシーン”で起きた出来事について、彼は「神の力が働いた」「奇跡が起きたんだ」と語ります。実際に至近距離で撃ちまくられたにもかかわらず、彼らコンビは全くの無傷。タランティーノのチープな演出であるかはさておき、撃たれた人の真後ろに弾痕があるというのは、奇跡と言わざるを得ません。それにヴィンセントの”トイレの奇跡”も相まって、仕事は大成功を納めます。
羊飼いになったジュールス
場面は換わって、血まみれの車を片付けて向かった朝のレストラン。ここでもヴィンセントは用を足しに席を立ちます。トイレから出るとそこではレストラン強盗が起こっており、なぜか相棒ジュールスが銃を突きつけているという修羅場に遭遇。このときジュールスは、人生の転換期を迎えたから人殺しはやめておくと語りました。パンプキンとハニーバニーは、勢いで強盗を仕掛けたレストランで遥かに大きな悪党と対峙。金だけを手にしてさめざめ半泣きで店を後にします。
この場面では一見”トイレの災厄”によって悪いことが起こっているのですが、結果的にコンビは最悪の事態を免れます。ボスの妻が死にかけることに比べれば、相棒が銃を突きつけられているシーンなんてものはきっと朝飯前でしょう。ボスの荷物にも損失はなく、五体満足で颯爽とレストランを後にしました。
剛腕ながらクールに事を運んだジュールスのおかげで、ヴィンセントもパンプキンもハニーバニーも、誰も命を落とすものはいませんでした。そういう意味で、彼は誰かを導く羊飼いになれたのかもしれません。
間抜けコンビに訪れた、人生の転換期
ジュールスと一緒にいたおかげか、ヴィンセントはレストラン強盗を乗り切って店を後にすることができました。”トイレの奇跡”と”災厄”なんて一貫性がないように感じますが、物語の後半、ヴィンセントがトイレから出てプッチに撃ち殺されてしまうので、彼の持ち合わせる悪運はまだまだ健在のようす。そう考えると、朝のレストラン強盗でTシャツ姿の間抜けコンビを救ったのは、敬虔なジュールスの”神の奇跡”の方だったのではないでしょうか。
(パルプの時系列については後ほど記事を起こします。)