この記事では映画「シャッターアイランド」のネタバレを扱います。目を通す前に、ぜひ何度か映画を見てもらえれば嬉しいです。絶対そのほうがいい。
アナグラムがストーリーの鍵を握っていることからも分かるとおり、この物語はシャッフル構成で進んでいきます。物語のラストを理解するには、一度時系列に沿ったプロットを起こすのが吉。
構成上のファクトを追うことが主な目的なので、メインとなるEパートの演出などはバッサリカットです。美しく編み込まれたストーリーを理解するため、一度この物語を台無しにしていきます。
A: 第二次大戦期のトラウマ
戦時中、ナチスドイツへ従軍したアンドリュー・レディス(テディ・ダニエルス)。
彼はダッハウ収容所解放作戦にて死体の山を目にし、捕らえたナチス兵を自身の手で銃殺。何かできたかもという後悔から、暴力による深いトラウマを味わいます。
レディスはここで「暴力を振るう“イカれたモンスター”は死ぬべきだ」との思想を持ちました。(※)
B: 保安官時代のトラウマ
退役後、本国に戻ったレディスは連邦保安官となり、家庭を持ちます。ところが精神を病んだ妻ドロレスは、希死念慮からアパートに放火。酒に溺れる日が続きます。
湖畔の保養地に引っ込むも、今度は子どもたちを入水させてしまいます。救いを求めるドロレスを、自らの“暴力”によって殺めてしまいます。
このことから彼は、炎と水に深いトラウマを見出すようになりました。
C: 収監、出所
レディスは、殺人の罪でシャッターアイランド医療刑務所へ収監(※)。せん妄に取り憑かれた彼は、ないはずの過去と陰謀めいた被害妄想に囚われます。
主治医のシーアンとコーリー院長の尽力もあり、レディスの病状は一年で大きく改善。仮釈放されてシャッターアイランドを後にします。
D: 再収監と心理劇
一度は社会へ戻ったレディスですが、今度は酒場で殺人を起こし再び収監されます(※)。
知的で戦闘訓練も受けている彼には、査問理事会と警備隊からロボトミー手術による“鎮静化”が打診されました。
暴力的な医療を望まないシーアンと院長は、心理劇療法を提案。レディス自身がせん妄と現実の矛盾を認められるよう、島を挙げたロールプレイングを繰り広げます。
E: 白昼夢の中で
本作の構成はここからスタートします。
保安官テディ・ダニエルスは、医療刑務所シャッターアイランドへと上陸。島内で姿を消したという患者レイチェルを捜索する中、自分を陥れる陰謀を疑いはじめます。
F: 灯台で知る真相
孤島でのロールプレイングを経て、だんだんと現実と向き合うテディ。
白昼夢の中では自分の過去とトラウマを、灯台では現実に起きたすべての真相を知らされました。
昏睡の中、愛する家族の死を思い出しつつ、テディは一年前と同じ状態まで回復することができます。
G: イカれた奴らは
未だにせん妄を口にしだすテディ。それを見てシーアンは院長らへ向け首を振って見せます。
「どっちがいいのかな。怪物として生きるのと、いい人間として死ぬのと。」そういって彼は、自分の中の暴力性にけりを付けるべく、ロボトミー手術の支度へと向かいます。
それは贖罪であり、悲劇を忘れ楽になりたい自分自身の救済を意味しているのかもしれません。
終わりに
※…不鮮明な部分は推測を交えています。
もしかしたら初犯か再犯のとき、ジョージ・ノイスとの放火をしているかもしれません。作中のできごとだって「実はせん妄だった」となれば、もちろん時系列は変わってしまう。
ありがたいことに?スコセッシは、せん妄の前後に「コップの水を認識しない」「逆再生するタバコの煙」など、不自然な映像を忍ばせています。もしその糸口を見つけたら、また物語がひっくり返る衝撃を味わえるはず。
それなりのサスペンスかと思っていたら、期待以上に味わい深い作品だった〜。